【はましゃか的サッカーチャレンジ】第2回(前編) 超・初心者向け!ルールがわからないままなでしこジャパンのプレーは観られるのか?
イラスト、デザイン、モデル、ライティングなど多分野で活躍するクリエイターのはましゃかさん。ユニークな視点で描かれるコラムが人気を集めているはましゃかさんですが、実は大学時代はサッカー部に所属していたという過去が。︎
この企画【はましゃか的サッカーチャレンジ】では、そんなはましゃかさんにJFAの「臨時広報部員」としてサッカーの魅力を探っていただきます。サッカーの世界に足を踏み入れていく過程をはましゃかさんに綴っていただく本エッセイ企画。第2回目は、なでしこジャパン(日本女子代表)候補たちによるトレーニングマッチを観戦しました。
雨降る「高円宮記念JFA夢フィールド」で選手たちのプレーを間近で観て、さらには女子サッカー事情に詳しいJFA職員からお話を伺った今回。
その前編をお届けします。
ついに初試合観戦!と浮かれていたのに…
サッカーのルールがわからない。
それなのになぜか「なでしこジャパンのトレーニング試合を観に来ませんか?」と誘ってもらい、行かないと損しそうという卑しい興味のみで行くことにした。当日の朝、選手たちによるオンライン会見が行われるルームに寝ぼけまなこで入室すると、そこではマジのスポーツライターたちによる取材が繰り広げられていた。
大手メディアの記者さんたちの流暢な質問に、ガチのアスリートたちがハキハキと回答している。私は、明らかに、よそもんである。と思えばフリーランスの記者たちも堂々と質問しているではないか。
「はましゃかさんも何か聞きたいことがあったら聞いてくださいね」
確かに前日言われてたけど、いやこの雰囲気は無理無理無理!!
周知の前提を踏まえて一歩踏み込んだ質問とか、ルールも知らない私にできるわけがない。「フォワードってなんですか?」「ワールドカップっていつですか?」とか聞いて「職業体験の方はご退室ください」って言われる未来しか見えない。
浮かれて試合観戦に行くつもりだったけど、これががっつりとした取材を期待されていることに気がつき、慌ててメールを見返すと「広報部員として潜入取材」としっかり書いてあるではないか。
現場で恥をかかないよう、私に頼んでくれた人たちに「なんだこいつ」と思われないように、わかってます感の表情の練習だけして向かった。これが本当の潜入取材である。
上から見るか?横から見るか?
会見で聞いた話を元に「できたてホヤホヤのチーム編成の初練習試合」を見に行くらしいという最低限の予想を組み立て現場に到着すると、前回の取材で歩いた芝生で本物の選手がアップしており、私はガチガチに緊張した。
こんな私に、ここが一番見やすいですよとフィールドを上から見渡せる場所で観戦させてもらうことになり、浮かれていた時にお願いしていた代表のユニフォームまで着てしまった。こうなると「ルールがわからない」は口が裂けても言えない。
そこに現れたのは、元なでしこジャパン付きの広報さん。
「今日は僕が質問に答えるので、わからないことがあったらなんでも聞いてください」
(言っちゃダメだ!言っちゃダメだ!言っちゃダメだ!)
「すみません、ルールがわかりません……」
「あはは、大丈夫です。試合を直接見ればわかります。JFAの新人でも、最初はそんな人もいるけど、上から見たらわかるよって言ってます」
この人こそ、前回の記事で登場した「上から見ろ」エピソードの人だと確信したので、正直になんでも聞いてみることにした。
ー初歩的なところからすみません。今日はどんな試合なんですか?
「女子サッカーの日本代表チーム、通称「なでしこジャパン」の練習試合です。先日の東京オリンピックが終わってから監督も選手も入れ替わり、次に目指すのが2023年のワールドカップと、2024年のパリのオリンピックです。まだまだ先かと思いきや、ワールドカップのアジア予選が年明けの1月なんです。それに向けてチームを作るための練習試合です。
ー今回のチームはどんなメンバーなんでしょう?
「東京五輪経験者が多いです。女子ワールドカップには20歳以下と17歳以下の部門もあるんですが、池田新監督は今までU-20の監督をしていたので、そこで経験を積んだ若い選手も入りました。年齢層としては一番上で30歳、23~4歳が平均して多いですね。」
ーすごい!30歳になってもプロで活躍できるんですか?
「男子は筋肉や体を酷使するため加齢による衰えが顕著なのに比べ、女子はあまりフィジカルに頼らないので男子より息が長くできると言われていて、活躍年齢も上です。
その一方で、競技人口で考えると女子サッカーは男子に比べて6%しかいないんです。そのため、実力があれば若い頃から大人に混じって一緒にプレーできたり、怪我がなければ40歳近くまでトップレベルで活躍できる、というのが実情です。」
ーー
お気づきだろうか、その時私は、サッカーチャレンジだけではなく、「試合を観ながら取材する」というマルチタスクチャレンジにも挑戦していた。
目の前に広がっている試合を直接観て一番驚いたのが、音だった。
無観客だったのが幸いしたのか、ボールを蹴る「ボンッ!」という低い音がフィールドに響き、選手や監督の掛け声もはっきり聞こえてくる。
ビクビクしていたのが興奮に変わった。観てる、今私は試合を観てるぞ!!いっけえ〜!!ボール奪え〜〜!!!!
取材も忘れ始めたその時、あ、高いところにボール…と月でも見るように眺めていたら、視界はスローモーションになり、どんどん近づいて大きくなるボールが私たちのいるバルコニーに飛び込み、私のすぐ真横で爆発音級の音でバウンドした。
こ、これが直接観戦の醍醐味……!?「見ればわかる」と言われたのはこれ!?
なでしこジャパンのゴールキーパー、山下 杏也加さんが防御したボールが飛んできたのだった。山下 杏也加選手だ。会見見ました。めっっっっちゃかっこいい!!
へたり込んで笑いが止まらないまま「ククク…盛り上がってきたじゃねぇか!!」と目をぎらつかせていたところ、「はましゃかさん大丈夫ですか?」という助け舟が入ったため取材していたことを思い出した。
ーー
男子と試合をしておく理由は?
ーきょ、今日の相手は八千代高校の男子サッカー部なんですね。男子高校生と練習するのはどうしてですか?
「ワールドカップやオリンピックで戦うアメリカやヨーロッパのチームには男子選手に匹敵する能力を持った女子選手がたくさんいるんです。背も高ければスピードも早くて、ぶつかったら跳ね飛ばされたり、一瞬で置いていかれるくらい足の速い選手たち。そういう選手たちと彼女たちは戦わなきゃいけないんです。高校生でも体は大きいですし、女子とは違うスピードを持っていて、それが世界で対戦する海外勢を想定したときにちょうどいいんです。大学生にトレーニングマッチをお願いすることもありますね。」
ーあれ?でもそれでなでしこジャパンって前優勝してた気がするけど、それってもしかして、思ってるのの数倍すごいことだったんじゃ…?
「2011年になでしこが優勝したことで世界の女子サッカーが変わった、と言われているんです。今は、我々が変えたサッカーに苦しめられている状態なんです。」
‘‘我々が変えたサッカーに苦しめられている’’って、一体どういうこと…?
次回に続く→
編集注:
本記事中でのJFA担当者の発言は、あくまでも現場で女子サッカーに携わってきた担当者が、自身の見解からはましゃかさんにわかりやすくお話ししたものであることをご了承ください。