【90分間の観戦マイルール】Case1 落語家・柳亭小痴楽さんは、一つの試合を二度堪能する
あの人の観戦ってどんなだろう。
サッカーの自由な楽しみかたは、試合観戦のスタイルにこそ表れます。
スタジアムに足を運んで選手たちの熱気を感じながら観るもよし、好きなお菓子をつまみながら自宅のテレビで観るのもよし。どんな場所・服装で観たって、どんなところに注目して観たって良いし、”ながら観戦”だってアリなんです。
この企画では、各界で活躍するサッカー好きたちに、試合を観戦する時の極めて個人的なルールやこだわりをお聞きし、ユニークな楽しみかたを発掘していきます。
今回お話を聞いた落語家の柳亭小痴楽さんは、真打昇進以来、落語界きっての若手ホープとして活躍すると同時に、無類のサッカー観戦好き。独自のルールを伺ってみました。
お供は好物のビールかコーラ。ひとりでじっくり、観て、「聴く」。
僕が小学生時代を過ごしたのは、Jリーグが開幕してまだ間もなかった1990年代中頃。野球よりもサッカーが圧倒的な人気を誇っていて、例に漏れず僕もサッカーを習っていました。あまり上達せずすぐに辞めてしまったんですが、観るのは今でも大好きです。特にワールドカップの試合は欠かさず観ていて、大会期間中は試合を観るために寝不足で仕事に行くこともあるほど……。それでも僕にとってサッカー観戦は、仕事を忘れてリラックスできる大切な時間です。
観戦する時は、試合そのものに集中できるよう、自宅でひとり、好物のコーラかビールを片手に観ることが多いです。試合中に気をつけているのは、SNSを見ないこと。単純に途中経過を知りたくないということに加えて、なにより「〇〇の今のプレー、全然ダメじゃん」というように選手を下げるようなコメントを見たくないんです。自分自身も落語家として表に出る仕事をしているので、どうしても選手の気持ちを想像してしまいますね。
試合展開で特に気分が高まるのは、全体の流れが変わる瞬間。例えば、同じ攻めばかりを繰り返していて一向に相手を崩せず、「このまま続けていたら負けるだろうなあ」と思っている時などに、急にあれよあれよと上手くボールが運ばれて点が入ることがある。一気に形勢逆転するシーンを見ると盛り上がりますね。あとは、ブラジルのスター選手、ロベルト・カルロスや、日本ならば長友佑都選手のようなサイドバックのプレイヤーが前線にグワーっと攻め上がって来る時。今まさに点を取ろうと攻勢に出た選手たちの勢いを感じる瞬間に興奮します。じっくり試合を観ているからこそ気づくことかもしれません。
試合を観終わってからのルーティーンは、録音していた試合の実況を聴き直すこと。落語家モードに戻って、マクラ(落語の演目に入る前にする世間話のこと)に生かせるネタがないか、メモをとりながら振り返るんです。
特にお世話になっているのは、解説者の松木安太郎さん。例えば、クロアチア代表のルカ・モドリッチ選手のプレーを「モドリッチ、あ!取られた!でもすごい!戻る、戻る!モドリッチ!良い戻りッチだ!」などとダジャレで実況したり、良いシュートがゴールキーパーに防御されたシーンでは「あー!惜しい!キーパーがいなければ……!」などとものすごく当たり前のコメントを発したり(笑)。
松木さんならではのコメントが、すごく面白くて。解説を聞いて、それを噺の種に次の日の高座に向かうこともあります。試合も、実況も、じっくり観て、聴く。これが自分流のサッカー観戦です。