【あの頃、わたしはサッカーに夢中だった】第4回スープ作家・有賀薫さん
サッカーとの思い出は人それぞれ。
忘れられない試合のこと、当たり前に見ていた風景、その時感じたことのひとつひとつにドラマがあります。この企画では、各界で活躍する方にご自身のサッカーとの繋がりをお話しいただくことで、さまざまな角度から見える「サッカーの景色」をお伝えしていきます。
今回、お話を伺ったのはスープ作家の有賀薫さん。
さいたま市在住で、20年近く浦和レッズを応援している有賀さんに、これまでのサッカーヒストリーを伺いました。
夫と出会って、サッカーに出合った。
夫に誘われて行った「トヨタカップ」がサッカーとの出合いです。新卒で入った〈バンダイ〉はおもちゃの会社ということもあり、社員は皆遊ぶことが大好き。私がプラモデルの営業企画などをやっていた頃、同じ会社で働いていたサッカー好きの夫に誘われて、国立競技場へトヨタカップを見に行きました。ルールも全然わからなかったのですが、パスが繋がっていく様子を見て、サッカーってすごい「きれい」だなと。その後、Jリーグの開幕戦も見に行きました。
夫と結婚してから、子育てがしやすそう、住みやすそうという理由で埼玉県の浦和へ引っ越しました。ここはJリーグ、浦和レッズのホームタウン。公園でずっとリフティングをしている子供がいたり、試合がある日はユニフォームを着たサポーターがいたりと、まさに「サッカーの街」なんです。一度、浦和から引っ越そうとしたことがあるのですが、夫からは反対されて踏みとどまりました。もしかすると夫が反対した一因は、この街には浦和レッズがあるからなのかもしれません(笑)。
息子が生まれてしばらくは手が離せませんでしたが、浦和レッズが強くなっていく2003年頃からスタジアムで試合を見るようになり、一気にハマっていきました。夫が試合中に「オフサイド」や「裏の動き」といった専門用語や見どころを解説してくれたことは大きかったですし、私は一度ハマるとのめり込むタイプなので、サポーターが書いたブログを読んだり、雑誌の解説を見ながらプロの視点を学んだりと、相当に勉強しました。あとはスタジアムで試合を見ることはやっぱりいいなと思います。浦和レッズのホーム、埼玉スタジアムはすごいですね。空気感やサポーターの声、何時間も前から屋台が出て、広場で親子がサッカーをやっている、あの風景が好きなんですよね。忙しい毎日の中で、半日で旅をするような感覚を味わえる場所です。
親子三人で見た、アジア制覇の瞬間。
夫婦共通の趣味ということもあって、サッカーは我が家の中でも大きな存在。一方で息子はサッカーにあまり興味を示さず、試合観戦に行く時はいつも家でお留守番をしていました。一番印象に残っている試合は、2007年のAFCチャンピオンズリーグ(※ACL:アジアで一番強いクラブチームを決める大会)です。準決勝のPKで、浦和サポーターがゴール裏に一気に集結した様子は鳥肌が立ちました。その後に行われた決勝は別の意味で思い出深いですね。私たちは決勝のチケットが手に入らなかったのですが、どうしても見たいからと現地まで行くことに。その時はいつも家で留守番をしている息子も連れていきました。当時小学校高学年くらいだったと思います。「チケット譲ってください」の看板を持って立っている両親の姿を見て、その熱が伝わったのか、突然息子が「チケット譲ってください!お願いします」と大きな声で叫んだんです。どちらかと言うと息子はシャイな方だったので、びっくりしました。その甲斐あってチケットを譲ってくれた方がいて、スタジアムで浦和レッズが優勝した瞬間を見ることができた。親子3人で見た試合は今も心に残っています。
スタジアムで躍動する「汗かき役」こそサッカーの魅力。
現在はスープ作家として、暮らしの中でどうスムーズにスープを取り入られるか、毎日の暮らしで無理なく食を回していくことをサポートする気持ちで日々記事を書いています。これまで主婦やライターなど、汗かき役のような仕事を長いことやっていたので、スタジアムの広いピッチのボールがないところでも懸命にプレーする選手たちの姿にすごく共感しました。「ちゃんと一生懸命やっていることを誰かが見てくれる、評価してくれるんだな」という勇気も湧きましたね。スタジアムでは、テレビには映らない選手の動きが見られますし、サポーターもそれをきちんと見ています。広いピッチで行ったり来たりを繰り返している選手など、裏方にすごく大きな仕事がいっぱい詰まっていることがわかります。サッカーは本当にいろんな選手がいて、ピッチ上でどういう組み合わせになるかさまざまな形がある。ゴールを直接決めない選手もチームの一員として得点に貢献しているし、ボールが動いていないところでも汗をかく選手たちがいて、その姿をスタジアムで見られるからこそ、サッカーに惹かれるのかなと思います。