見出し画像

【90分間の観戦マイルール】Case3 写真家・松本直也さんは、レンズではなく肉眼で、試合風景を目に焼き付ける。

あの人の観戦ってどんなだろう。

サッカーの自由な楽しみかたは、試合観戦のスタイルにこそ表れます。
スタジアムに足を運んで選手たちの熱気を感じながら観るもよし、好きなお菓子をつまみながら自宅のテレビで観るのもよし。どんな場所・服装で観たって、どんなところに注目して観たって良いし、”ながら観戦”だってアリなんです。この企画では、各界で活躍するサッカー好きたちに、試合を観戦する時の極めて個人的なルールやこだわりをお聞きし、ユニークな楽しみかたを発掘していきます。

今回お話を聞いたのは、雑誌やカタログを中心に活躍中の写真家、松本直也さん。長くプレイヤーとしてサッカーに関わっていたそうですが、2020年にはスタジアム付近で撮影した写真をテーマに個展を開くほどスタジアム観戦が好きだといいます。写真とサッカーを愛する松本さんに、独自の観戦ルールを伺いました。

プロフィール_matsumoto

スタジアム観戦は、写真でスタート。
赤提灯の居酒屋で乾杯したらゴール。

出身の静岡県は「サッカー王国」と言われるだけあって、友人や従兄弟など周りがほとんどサッカー少年団に所属していました。その影響もあり、僕も小学2年生からサッカーを始めたのですが、上達してプレーの幅が広がるにつれてのめり込み、結局は20歳頃までサッカー漬けの毎日を送っていましたね。しかし、プレイヤーを辞めてからの方がサッカー愛が深まっているなと近頃思うんです。

ここ数年は、渋谷の写真屋<フォートウエノ>の店主・上野利之さんと2人で観戦に行っています。2人とも写真とサッカーと赤提灯系の居酒屋があれば十分満足といった人間で(笑)。試合“前後”に、スタジアム周辺を撮影することがお決まりになっているんです。最寄り駅に少し早く集合して、「じゃあ、後ほどスタジアム集合で」と一旦解散。何を撮るかや縛りもなく、思うがままに撮っています。なのに不思議と、2人とも全く知らない土地に来たのに、自宅の近所にありそうな「何でもないような場所」ばかり撮影しているんですよ。

画像2

試合観戦前にスタジアム付近で撮影した写真。(松本直也さん撮影)

一方、試合“中”となると、打って変わって写真は撮らず試合に没頭します。撮らないと決めている訳ではないのですが、撮る事すら忘れてしまうんです。綺麗な景色を見た時、この瞬間を写真に残すよりも、目に焼きつけてずっと見ていたいと思う感覚に近いかもしれません。幼少期から10代すべてをサッカーに捧げていたので、未だに試合中は現役時のポジションであるボランチの選手を追ってしまうのですが、少し昔に戻ったような気になれるんです。それから、夕陽の当たる緑色の芝を見ると色々な感情が交錯して......。スタジアムは自分にとってノスタルジックな風景なのかもしれません。もちろん、テレビや配信を家でごろごろしながら観ることもあるのですが、やはり現地に足を運ぶことで感覚が働き、“体験”として試合を楽しめるのかなと。笛が鳴ってから、写真を撮っていなかったことに気がつきますね。

そして試合が終わると、また2人で歩きながら写真を撮りつつ、スタジアム近くの居酒屋で一杯呑んで帰ります。「半日で自分の好きなことを全て体験してしまうなんて幸せだ」とよく酔いながら話していますね。

画像3

試合観戦後にスタジアムの上から撮影した写真。2019年10月23日、カシマスタジアムにて。(松本直也さん撮影)

最近も久しぶりに2人で鹿島スタジアムまで行ってきましたが、変わらず写真から始まり居酒屋で締めましたね。大好きなオフの過ごし方なので、続けていきたいです。構図を決めずに撮るのもいいのですが、次は色んな角度からサッカースタジアムの見える風景写真を撮りたいなと思います。JOEL MEYEROWITZ の『THE ARCH』というアーチを写した写真集があって、そのアプローチがとても良いんですよ。