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【はましゃか的サッカーチャレンジ】第3回 女子サッカーの世界を潜入取材してきた。

【はましゃか的サッカーチャレンジ】では、クリエイターのはましゃかさんがJFAの「臨時広報部員」として、中の人のお仕事に潜入。その過程で感じた悲喜こもごもをコラムに綴っていただきます。

前回に引き続きなでしこジャパン(日本女子代表)の練習試合を間近で見ながら、女子サッカー事情に詳しいJFA職員に直撃取材するはましゃかさん。「ルールがわかりません...」からはじまった元なでしこジャパン付きの広報へのインタビューが、これまで触れられることのなかった女子サッカーの実情に切り込む展開へ。最終回の今回は、女子サッカーの未来を、はましゃかさんと一緒に考えます。

我々が変えてしまったサッカー

ーなでしこジャパンといえば、ワールドカップで初優勝し連日ニュース番組に取り上げられていたことが記憶にも新しいです。なのに今、‘‘我々が変えたサッカーに苦しめられている’’とはどういうことですか?

2011年になでしこが優勝したことで女子サッカーが変わった、と言われているんです。誤解を恐れずに言えば、今は、我々が変えたサッカーに苦しめられている状態です。

それまでの世界の女子サッカーは、蹴って走って、というダイナミックな試合が多かった。ですが、なでしこが細かな動きと緻密なチーム戦術を生かした’’スモールフットボール’’で2011年のFIFA女子ワールドカップで優勝しました。世界を制した日本のサッカーは世界でも高く評価され、欧米諸国も日本のような戦術的なサッカーを取り入れ始めたと言われています」

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「そもそも海外の選手は日本の選手と比べると体が大きくて、遠くに蹴って速く走れる強い選手が多く、その上で技術的にもうまいとなるとやはり苦しめられますね。」

ーぎゃああ、一難去ってまた一難じゃないですか……! (といいつつ、リアルな事情が聞けて楽しくなってきました)

日本代表の仕事は氷山の一角

ーそういえば、JFAのみなさんって試合がない日は、どんな業務をしているんですか?

「代表チームが目立つので、試合の帯同ばかりしていると思われるかもしれないですが、ここ(試合)はほんの氷山の一角なんです。僕らの仕事はサッカーを広めて、サッカーを好きになってもらい、サッカーの文化を守ることなので」

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「お子さんにスポーツを身近に感じてもらい、各種ある競技の中でもサッカーを選んでもらえるように、全国でフェスティバルを開催したり、指導者が増えるような講習会を開催したりもしています」

ーなるほど。日本全体の競技人口を増やすための取り組みもされているんですね。

「そうなんです。最近競技人口が増えているのは、シニア層です。今みなさん元気じゃないですか。JFAでは、O-60、O-70と言って、60歳以上や70歳以上といったカテゴリーの大会も主催しているんですよ。昨年はコロナの影響で開催中止となっていますが、また再開されたらぜひたくさんの人に応援してほしいです」

女子サッカーをもっと盛り上げていくために

ー冒頭の女子サッカーの人口が男子に比べて6%というのが気になったんですが……。どういうことをしたら関わる人が増えていくと思いますか? 

「女子サッカーに関するあらゆることについて議論、検討する‘‘女子委員会’’という組織があり、どうしたら女子サッカーが発展していくのかという話をたくさんしています。
女子サッカーの裾野を広げるために、サッカーの楽しさを伝えていく普及活動を絶対に辞めちゃいけない。そして、そうした普及活動をより多くの人に知ってもらうために、活動内容や魅力を伝えることができる仲間をもっと増やさないといけない。そういう広報活動を地道にやっていくしかないと話しています」

ー具体的な壁というか、課題になっていることって何でしょう?

「いい質問ですね、深い質問ですねぇ!」

画像4     キラキラした目で褒められた、あざす!褒められて伸びたい。


「そういう一歩踏み込んだ分析って大事ですよね。ここを改善すれば一気に競技人口が増えるという、即効性のある解決策はなかなかないのですが…。

実情として、小学校のうちは女子の競技人口も結構多いのですが、中学校になるとがくっと減ってしまうんです。根幹的な原因ではないと思いますが、サッカーは屋外競技なので、室内競技に比べると日に焼けたり、学校は土のグラウンドが多いので、練習が終わると土まみれになったりしますよね。やはり思春期だと気になる子もいるのかなと。

あとは単純に女子サッカー部がすごく少ない

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ー確かに! 私も中高女子校だったけどサッカー部、なかったです。

「そもそもプレイヤーが少ないから、サッカー部が作られないという流れもあるかもしれません、鶏が先か卵が先かという話でもありますが......。

サッカーがやりたいと思う子どもたちを増やすと同時に、その思いを叶えられる場所を増やす。どちらにも働きかけなければなりません」

ーそれから私の場合、小学生のときサッカーを授業でやったんですけど、男子に相手にされなくて、それでつまんなくなっちゃって……。選手たちはどうして続けられたのでしょうか?

「そういう時期はありますよね......。僕が個人的に思うのは、そういう状況でもサッカーって楽しい! と思えた子たちが今もこうして続けてるのかなと。代表選手たちにサッカーを始めたきっかけを聞くと、お兄ちゃんがサッカーをしていたから、という答えが多いんです。お兄ちゃんがボールを蹴ってるのを見てたら興味が沸き、練習にくっついていって一緒に参加させてもらったという話をよく聞きます。だから、彼女たちの中には、男子のサッカー部で男子選手に混じってプレーしてきた選手がたくさんいるんです。そのような環境の中でも、純粋にサッカーが楽しいと思えたり、目指す目標があったり、彼らと競えるくらい能力があったんでしょうね」

選手のリアル、教えてください!

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ー話を聞いていると、競技人口は“好きなことを仕事にする不安”にも関係しているのかなと思いました。実際に女子サッカー界で活躍している選手たちが、サッカーだけで生活できていることわかれば、次世代のプレイヤーたちの希望になるのかなと。

ちなみに、女子サッカーのプロの選手ってどのくらいいるんですか?

「21年9月に日本で初の女子プロサッカーリーグ’’WEリーグ’’が始まったんです。WEリーグには全国の11チームが参加していて、今回の活動に選ばれた選手は全員がWEリーグのクラブに所属しているプロの選手です」

ーおお! 昨年から! ついに女子サッカーもプロリーグが始まったんですね。
なでしこジャパンが初優勝してからWEリーグが始まるまでの10年間、プロに相当する選手のみなさんは、普段どのように過ごしていたのですか?

「WEリーグが始まるまで女子のトップリーグだった“なでしこリーグ”はリーグとしてはアマチュアでしたので、選手たちはサッカーで生計を立てているわけではありませんでした。多くの選手がチームのスポンサー会社やチームが拠点を置く行政機関などで働くケースが多かったようです。現在もそうですが、大学生を中心に学生も所属していましたね。日中は仕事して夜に練習したり、朝練習して午後仕事したりという選手もたくさんいました。スポンサー会社に所属している選手の場合は、練習と仕事の両立に理解のある環境でサッカーに取り組めていたケースが多かったようですが、そのあたりの調整が大変だったという話も聞きます。一部のチームはプロチームとして運営していたり、そうでないチームにおいても選手が個人的にチームとプロ選手として契約するという形もありました。

ですが、’WEリーグ’が始まったことで、みんな口々に、プロになって24時間全てをサッカーに費やせる、休むにしてもリフレッシュするにしても練習するにしても、サッカーのために1日をデザインできることは大きなメリットだと話しています」

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途中から雨に振られた試合は日が暮れるまで続き、結果は八千代高校男子サッカー部が勝利しました。くう、悔しい〜! とすっかりなでしこジャパンを応援してました。


ー今日は詳しくお話聞かせていただいて、本当にありがとうございました。

結構芯を食ったことを聞かれてびっくりしましたよ。女子サッカーの具体的な課題は? とか、僕ももっと頑張らなければと思いました(笑)。 はましゃかさんこそ、試合を見てみてどうでしたか?」

ー実は今回、観戦方法を聞くつもり満々で隣に座らせてもらったんですが、ルールや観戦のコツを説明してもらうまでもなく、この高さから見るだけですっかり試合に見入ってしまいました。ボールも飛んでくるし、会場の臨場感に圧倒されて、観戦方法は聞くまでもなかったです。やっぱりスマホで見るのでは全然違いますね!

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「楽しんでくれたならよかったです。次はぜひ、広いスタジアムで行う代表戦にも足を運んでいただきたいです」

ー絶対に観に行きます!その時ももちろん、なるべく高い場所の席で。今日はありがとうございました!

「お姉ちゃんがサッカーしてたから」を作るために

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女子サッカーの競技人口が増えるためにどんなことができるんだろう。「お兄ちゃんがプレーしてたから」が始める動機として多いなら、子どもの頃から周りにサッカーしてたお姉ちゃんがもっと増えれば、気軽に始める女の子が増えるかも。

もうやめて〜! と思っても、「女の子らしくしなさい」とかと呪縛をかけてくる人たちはまだまだ、いる。女の子らしさが何か知らないけど、女の子らしさとサッカーって、まだ両立しない世の中なんだっけ?

大人になれば「その価値観、アタイの可能性、狭めてるヨッ!!」とか言えるんだけど、まだ子どものうちに家族や先生、好きな人に言われ続けたらどうだろう。

思春期になってものびのびと日に焼けて屋外のスポーツに明け暮れる青春が、泥んこになっても恥ずかしくない、むしろ当たり前にかっこいいって思えて、周りから心身ともに応援してもらえる環境がもっと広まったら、女子サッカー部はもっと増えるかもしれない。そうしたら、かっこいいお姉ちゃんたちは女子サッカーのプロ選手に憧れて、卒業文集に将来の夢はサッカー選手って書くかもしれない。

そんなことを考えていたらあっという間に夜!雨!寒!!!
気づけば他の報道陣も見当たらず(広すぎただけだと思うけど)試合が終わった選手たちにできることは、激励の拍手を送るだけ……。試合一本見るだけで凍えて足がバンバンになったのに、これで仕事と両立してた選手たちって、一体どうなってたの〜!?

選手たちの活躍がこんな間近で見れるとは。特に印象に残ったのは選手たちの声。無観客だからこそ聞こえる監督やコーチ、そして選手同士の掛け合いが放課後の部活を眺めているようで、女子サッカー部に縁がなかった私にとってはまるで青春の追体験......。

ずっと気になっていた女子サッカーの世界について思い切って聞けたことはもちろん、自分が想像以上に試合自体にのめりこんでいたことにびっくり。


これにて【はましゃか的サッカーチャレンジ】は終了! 
......ですが、まだまだ勉強不足を実感。調べれば調べるほど、気になることは尽きません。気になる選手もちらほら。こうして人はサッカーにハマっていくのか......。沼ってこういうこと!?

改めて新生なでしこジャパンのみなさん、素敵な試合をありがとうございました。
アジア予選も見なくっちゃ!

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はましゃかさんprof


編集注:
本記事中でのJFA担当者の発言は、現場で女子サッカーに携わってきた担当者が、自身の見解からはましゃかさんにわかりやすくお話ししたものであることをご了承ください。